語りかける身体 看護ケアの現象学
【重要】
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■商品説明
「植物状態患者」は自分自身や周囲の環境を認識できず、他者と関係することが不可能だと定義されている。しかし実際に彼らと接する看護師や医師の多くは、この定義では理解できない「患者の力」を目の当たりにする。自然科学は彼らを「意識障害」としか診断できない。そこで著者は現象学という哲学を使って、その〈何か〉を探究し始める。
植物状態患者のみならず、高齢者や認知症などのケア、日々のコミュニケーションにも通じる、「目で触れ、耳で見る」ような身体のあり方を描く一冊。
「長田弘という詩人にこんな言葉がある。「みえてはいるが誰れもみえていないものをみえるようにするのが、詩だ」。わたしはこれこそ現象学の定義だと考えてきたものだが、この定義は西村さんの現象学のなかでなによりも生かされているとおもう。……わたしが西村さんのお仕事に読み取ったもっともたいせつだとおもわれること、それはひとつの身体的な存在が別の身体的な存在のかたわらにあるときに、そこに生まれる身体のコモンセンス、いいかえると感覚相互の浸透しあいでありまた社会的な感覚でもあるようなコモンセンス、それを科学は引き裂いてきたのではないかという問いである。本書でしめされているのは、哲学と臨床とがひとりの人のなかで深く交差した、稀有な仕事だとおもう。」――鷲田清一(本書「解説」より)
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「植物状態」は「意識障害」ではない――。人と人との関わりのうちにある〈何か〉を掬い出す、臨床の哲学。
*本書の原本は、ゆみる出版より2001年に刊行されました。文庫化にあたり、情報を更新し、加筆修正を行いました。
【目次】
第一章 〈植物状態患者の世界〉への接近
1 植物状態患者との出会い 2 方法論的模索
第二章 看護経験の語り
1 Tセンターでの経験 2 受け持ち患者との関わりをふり返る 3 経験のふり返りと気づき
第三章 〈身体〉を介して交流する看護ケア
1 視線が絡む 2 手の感触が残る 3 タイミングが合う 4 交流が成立する基盤
第四章 臨床のいとなみへのまなざし
1 探究プロセスの振り返り 2 看護研究における現象学的方法論の課題
解説 臨床のまなざし、現象学の思考――鷲田清一
■著者
【西村 ユミ著】
首都大学東京大学院健康福祉学部看護学科教授。看護師。日本赤十字看護大学卒業。神経内科病棟での勤務などを経て、日本赤十字看護大学大学院看護学研究科(基礎看護学専攻)博士後期課程修了。現象学・身体論を手がかりとしながら看護ケアの意味を探究する。臨床実践の現象学会主宰。おもな著書に『交流する身体――「ケア」を捉えなおす』『看護実践の語り――言葉にならない営みを言葉にする』『看護師たちの現象学―協働実践の現場から』。
【鷲田 清一解説】
1949年生まれ。京都市立芸術大学学長。せんだいメディアテーク館長。哲学者。臨床哲学を探究する。著書に『現象学の視線』『モードの迷宮』『じぶん・この不思議な存在』『「ぐずぐず」の理由』『聴くことの力――臨床哲学試論』ほか多数。

